第40号 第1会議室 | (1999/11/29)![]() ![]() |
● 財政再建団体とは? ● |
最近,特に耳にする機会が増えた言葉に「財政再建団体」があります。これはよく,自治体が「自己破産」したようなものだと説明がされるようです。 ここでは,実際に財政再建団体とはどのようなもので,住民へかかる不利益はどのようなものであるのかを検証したいと思います。 □財政再建団体とは? 財政再建団体は,1955年に制定された「地方財政再建促進特別措置法」によって設けられた制度で,赤字比率が財政規模の都道府県で5%,市町村で20%を超えた場合に財政再建団体となります。ちなみに,東京都では約2800億円が目安となります。 財政再建団体となれば,「自主再建方式」と「準用再建方式」のどちらかを選択して,再建を図らねばなりません。 「自主再建方式」は,自治体自らが再建計画を立案し,実施をします。 しかし,地方債の起債制限を受けるため,「災害復旧事業」や「地域改善対策特定事業」などを除くと,多くの事業が事実上実施できなくなります。また,国からの財政援助や法令上の優遇措置が無くなるので,公共事業だけでなく,行政サービス全般の提供に制約がかかることになります。 「準用再建方式」は,地方議会の議決と自治大臣の承認を受けた再建計画に基づいて予算編成が実施され,財政建て直しを行います。自治大臣の承認を受けるので,自主再建方式と比べ,実質的な制約が少ない方式と言えます。 つまるところ,地方自治体への国の関与が強まり,地方独自で物事を決めることが出来なくなるということになります。結局,地域の住民にとっての行政サービスというよりも,再建のための行政サービスが提供されることになるようです。 □具体的な措置は? 現在,財政再建団体(準用再建)となっている福岡県の赤池町を例に取ると,歳入に関する事項では, (1) 課税額把握の適正化と計画徴収の推進,徴税率の向上 (2) 使用料の引き上げを含めた適正化 (3) 無償貸与土地・施設などの使用料徴収の実施 (4) 手数料の法令基準に基づく適正化,所要経費を踏まえた手数料の設定 などの変化がありました。 つまり,住民にとって身近なこととして,この赤池町では,町営住宅使用料,保育料,勤労者体育センター使用料,水道料金,体育施設使用料など公共施設,サービスの料金の引き上げが実施されています。 また「入りを図って出ずるを制する」の財政の基本姿勢から, (1) 行政組織の統廃合や職員数の適正化 (2) 年齢構成の不均衡の是正などによる管理的な経費の必要最小限化 (3) 建設事業などに関する単独事業の原則停止 (4) 公債費負担を生じさせる事業の原則停止 などで行政が行う投資的な経費の抑制が行われています。 □住民にとっては? 地域の住民にとって,この再建団体となることの影響は,上記のように使用料が値上がりすることによる家計への負担増だけではありません。 それよりももっと大きな影響は,将来の世代へ事業を積み残したままで先送りせざるを得なくなることです。何故なら,現在の地方財政で公債を発行せずにできる事業というのはほとんどありません(もし,機会があれば住んでいる地域の公立図書館で,予算書なるものを開いてみるとわかります)。 つまり,何にせよ,必要な事業(特に継続的に整備をしなければならない事業)が,財政再建団体になったことによって,出来なくなるということです。これは,特に道路整備などの公共事業だけでなく,あらゆるサービス全般にかかってきます。 □なぜ,破綻したのか? 財政再建団体となると,多くの制約が行政だけでなく,地域住民に対してもかかってくるような事態になります。では,多くの負担を強いることになるまでどうして財政が破綻してしまったのか。 先の赤池町から例に取ると, (1) 多額の公債による生活環境整備や失業対策の実施 (2) 土地開発公社や病院会計における不良資産・不良債務の拡大 (3) 公務員の高給与水準の維持と各種使用料などフ低水準設定 があげられます。 (1)の原因として,公債による収入を歳入とし,公債の返済による支出を歳出と計上するため,単年度のみの判断が主であり,長期的な財政負担として適正かどうかが明確にならないことがあげられます。 現行の自治体会計では,将来的には返済不可能な公債を背負って事業を実施しても,単年度で破綻しないよう厳格に管理されはしますが,長期的な財政負担として適正かどうかが明確にならないまま,公債を計上することが問題といえます。 (2)では,実際に財政再建団体になった時点に発生した赤字31億円のうち,土地開発公社によるモノが21億円,病院会計が6億円にもなっています。 炭坑の町からの脱却を図るために計画した,工場団地整備のための土地を土地開発公社に先行投資しましたが,見通しの甘さでスムーズに売却できなかったことなどが原因です。 (3)では,もともとのサービス料が安すぎたため,財政再建団体となって各種サービス料を値上げしました。これで実態として,国の基準に合ったと言えますが,住民は財政が悪化しても財政均衡を図るより,常に過剰な行政サービスを指向していたと言えます。 まとめると,自治体の会計制度自体の盲点と都市計画の甘さ,そして住民の危機意識の不足の3つに原因があると言っても良いでしょう。 赤池町では炭坑の町として栄え,その後の不況をどう乗り切るのかという特殊事情により破綻してしまいましたが,このことは,どこの自治体でも発生する事柄だと言えます。みなさんも,自分たちの街がどのような財政状況なのかチェックし,将来にわたった監視をする必要がありそうです。 (よしだ)
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