86号 第1会議室 (2000/10/30)up down
   ● 田中康夫長野県知事の選挙
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 10月15日,従来とは異なった1人の知事が誕生しました。作家の田中康夫氏です。
 彼の選挙活動は,これまで「常識」と考えられてきたものとは違っていました。何が違い,そして何が彼を勝利に導いたのかを説明して行きます。

【選挙概要】
 
□構図
 現職の吉田知事の引退に伴い,新人候補4人の争い。前副知事の池田典隆氏,共産党の中野早苗氏,元福祉施設職員の草間重男氏,そして田中康夫氏。
 田中氏が正式に立候補を表明したのは,9月7日。選挙活動期間はわずか1ヶ月強。

□各候補の推薦・支援団体

   池田候補
(推薦)自治労県本部[組合員約2万8千人],長野県職員労働組合
(支援)自民党,県会議員62名中57名。

   田中候補
(推薦)連合長野
(支援)小山峰男・民主党長野県選出参院議員,無所属グループ(いわゆる勝手連),「田中さんを知事にしよう!・自由な個人ネットワーク」(文化人が中心・歌人の佐々木都さん,ジャーナリストの日垣隆さんら三十人がメンバー)

   中野候補
(推薦)共産党

※民主党・・・自主投票(県議は池田氏支援)
 社民党・・・自主投票(県議は池田氏支援)
 公明党・・・自主投票(県議は池田氏支援)


 □投票結果(投票率69.57%)

   田中康夫 58万9324票
   池田典隆 47万3717票
   中野早苗 12万2615票
   草間重男  1万4770票

 県選挙管理委員会によると,1980年以前の知事選挙では80%前後の投票率が続いていましたが,80年に65.33%に落ち込んで以来,総選挙と同日に実施された前回(96年)の70.71%を除き,50−60%台の低調な傾向が続いています。投票率が急激に下がった原因のひとつは,79年まで統一地方選挙で行われていた知事選が,80年から単独選挙になったことが挙げられます。また共産党系候補と現職候補との対決となることが多く,現職候補の信任投票的な傾向が強くなったために有権者の関心が薄くなってきたと見られています。


【選挙活動】

□田中康夫流選挙活動法

 9月の立候補表明時は「組織も,お金も,時間もない」状態からの出発でした。しかし,無党派の市民グループの支援や,文化人による支援グループの結成により,支援者が拡大。1ヶ月でいわゆる勝手連が80を超えました。
 告示後は,大小合わせて約百ある勝手連は市町村の3分の1をカバーし,遊説や個人演説会の受け皿を担いました。全県に組織を持つ連合長野がそれをバックアップし,「個人的」に支援する民主党の国会議員らが遊説日程の調整に当たりました。
 
 田中氏の選挙運動で最も有名なのは,インターネットを活用した運動。選挙期間中も,1日200通以上来るメールに毎日目を通し,出来る限り全ての人に返信していました。その結果,選挙中,メールを通じてボランティアに来てくれた人は80人。
 また,実際に事務所には行かないが,自分のホームページを通じて田中氏の応援をする人・団体も多数いました。田中氏の応援という共通の考えのもとで,ネット上でのみお互い知り合っていた人同志が,投票日に初めて対面するという場面もありました。


□その他「田中康夫らしい選挙」

1.アポなしの役場訪問「県民が行くときはほとんどがアポなしなはず。役所の素の状態が見たい。」

2.名簿なし,電話攻勢なし。1日200キロ以上の徹底した遊説活動。

3.人口の多いところ優先という遊説の定番を無視して,山村部にも満遍なく入った。「一人でも多くの意見に触れるために動いているわけだから,県民がいるところに行くのは当たり前」


□選挙中の田中陣営の1日(信濃毎日新聞より抜粋)

 遊説四日目。午前八時すぎ,長野市の事務所で選挙カーに乗り込んだ候補は「田中康夫でございます」「私は包み隠しはいたしません」と沿道に語りかけながら,国道19号を南下し,昼前に松本入りした。
 ちょうど市中心部の四柱神社の秋祭りの初日。車を降りた候補は,露店が立ち並ぶ「ナワテ通り」など繁華街を駆け回り,手にしたビラを配り歩く。

 「見て,ホンモノよ」

 著名人だけに「田中康夫」に気付いた市民が,駆け寄ってくる。中には「『ペログリ』愛読しています」という若者も。松本パルコ前の演説では,いつの間にか,サインや記念撮影を求める人だかりができてしまった。子ども連れの母親(45)も「田中さんのお陰で知事選に興味が出てきました」と演説に耳を傾ける。

 陣営の遊説チームは,候補本人に加え,運転手,女性アナウンス係など十二人。車三台に分乗している。アナウンス係の黒島絹代さん(27)は週末だけボランティアで参加する会社員で,テレビの討論番組に出演した候補の発言に共鳴し参加したという。「選挙ってもっと堅いイメージだったけど,意外と楽しい」とマイクを握る。
 この夜,食事を終えた候補ら遊説チームは塩尻市の入浴施設に宿泊した。

 翌二日午前八時,遊説五日目。
 「今日も張り切っていきましょう」
 田中候補のかけ声で,選挙カーが走り出した。

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 今回の選挙は,従来の組織型,政党主導の選挙を否定した,新たな流れを予感させる選挙として評されています。これまでの選挙手法にも,大きく疑問を投げかける結果となりました。
 もちろん,インターネットによる宣伝など,「風」を感じさせる選挙であったことは確かです。しかし,今回で日本全体に風が波及するかどうかは,まだまだ未知数と言えるでしょう。
 今回の田中さん,そして同じムードの中での選挙であった高知県知事の橋本大二郎さんのケースは共に,抜群の知名度を誇っていました。これが著名人ではない候補者が,田中さんと全く同じ政策,選挙活動をした場合,有権者は今回と同じように理解を示すでしょうか?
 今後のいくつかの選挙を見なければ答えは出ないでしょう。ただ,この長野の選挙を見た全国の人々が,何かしらの期待を覚えたことは間違いないと思われます。

 最後に,この選挙には怪文書事件や,公務員による選挙運動という公選法違反疑惑,初登庁の際に差し出された名刺を面前で折り曲げた藤井世高・県企業局長の問題など,喜ばしくないことも多々ありました。敢えて今回は,ワイドショー的文面になることを恐れ,詳細の記述を控えました。ご了承ください。

 それにしても名刺問題の直後の国民の反応のすごさには,驚きと共に,なぜかうれしくなりました。


緒方


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