91号 第1会議室 (2000/12/04)up down
   ● アメリカ大統領選挙ゴタゴタ劇の仕組み
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 日米で偶然?にも,時を同じくして政治にまつわるゴタゴタ劇が起こりました。日本の場合は収束をしましたが,アメリカの場合はかなり尾を引きそうな状況です。
 今回は,民主主義の優等生を自認してきたアメリカの,民主主義のゴタゴタ劇の仕組みを分析してみたいと思います。


□選挙人制度の限界

 アメリカの大統領選挙は,世界の中でも優れたものであると自他ともに認められてきました。そのために今回のゴタゴタ劇が全世界に与えた衝撃は大変なものとなりました。

 日本では知事や市長といった首長を選ぶ選挙と同じように,アメリカの大統領選挙を捉えていました。つまり,国民の直接投票によって多数を占めた人が当選(直接民主制)すると思っていたわけです。しかし現実には,各州ごとに割り当てられた選挙人を通して,大統領を選ぶ間接民主制であることが,今回の件ではっきりわかったと思います。

 この選挙人制度が,今回の大統領選挙をわかりにくくしている一因といえます。

 本来選挙は,その国なり地域なりの舵取り役として任せられる人を選択するための手段であり,有権者の多数の支持を得た人にその権限が与えられる,民主主義の根幹をなすシステムです。
 まず,この大統領選挙で問題になったのは,選挙前の予想にもあったように全米で有権者の多数の支持を得ても,選挙人の獲得人数が少なければ当選できないという「逆転現象」が起こるというものでした。

 この逆転現象に相当するものは,どこの国であっても多かれ少なかれ存在します。イギリスでは完全小選挙区のため,第3党である自民党は得票数の割に議席数が伸びない状況にあります。しかし,このように,議院内閣制の国では逆転現象が起こったとしても,議会内では数の優劣が発生し,与野党間で権力を相互にコントロールすることができます。

 これに比べ,大統領選挙であれば,完全に一人の大統領を選んでしまうわけですから,チェック機関としての野党の存在など望めません。これでは民意を反映したかといわれれば,素直に頷くわけにはいかないでしょう。

 また選挙人の獲得方式が,各州の総取り方式と呼ばれるものだったりします。話題のフロリダ州では,この方式の下で25人の選挙人を「たったの数百票差」で勝利した陣営に,すべて渡してしまうということになります。この白黒はっきりした結果が,決して有権者の判断を表しているものではないというのは明らかです。これなども価値観が多様化している中で,やはり問題があるといえるでしょう。


□投開票制度の不備

 フロリダの投開票の報道を見ていると,投票方式・集計方式の不備などにより,大分混乱している様相が伺えます。各所でお粗末との批判が出ているようですが,全米で同じようなことが行われているかというと,日本でいう電子投票に近いようなものまで,一部では導入されており,一概に悪いとは限りません。

 ただし,報道上で現れる投票制度や開票作業での不備は,明らかに度を越えています。
 どこに穴をあけたらよいか迷ってしまうようなパンチ穴式の投票用紙,大量のカウントミスをする集計機械,有権者が投票所で列をなしているのに締め切りをしてしまったことなどが報道されたりしています。

 また,本来中立であるはずの選挙管理業務に携わる人たちが,応援する党のエゴを丸出しにするのも,明らかに日本では考えられないことです。


□多民族国家の苦悩


 これらの選挙に関する問題の根元には,民族的にも,行政的にも極限まで多様性を認めてきたという政策があるようにも思われます。

 アメリカが移民を積極的に受け入れる多民族国家だということは,皆さんよくご承知のことだと思います。しかし,この多民族国家というのは,行政の立場からすると,様々な困難が伴います。

 例えば,日本では,すーっと投票所に行って,すーっと候補者の名前を投票用紙に記入し,すーっと帰ります。これは書き込む言語が一緒だという大前提があるから行えることなのです。
 もし書き込む言語が違う場合には,書き込む言語で書かれた投票用紙を言語毎に作成しなければなりません。日本では,まだまだ帰化申請などが煩雑なため,かなり日本語をマスターしていないと,手続きさえできません。つまり,投票権のあるような人であれば,日本語での投票は十分可能なレベルにあるといえます。

 一方アメリカでは,積極的に移民を受け入れているため,中央集権による行政をおこなえば,各地域間での移民人口の格差により,住民のニーズに合わない行政サービスが行われ,反発が起きることは火を見るより明らかでしょう。

 地方の自治であれ,当然のごとく行政は,権利があるすべての人に,その権利を行使してもらうための努力を,最大限図ります。つまり,その結果として,地方政府による多種多様な投票方法がとられ,今回はその中のフロリダという地で,不確定な投票プロセス,しいては集計結果が発生してしまったと考えることができます。


□ゴタゴタ劇のその後


 その後の報道を見る限り,どうやらフロリダの決着もつきつつあり,結果的にはブッシュ氏が当選を果たすことになりそうです。しかしゴア氏にとってはフロリダの手作業で再集計されなかった票には未練が残っていますので,ただでは引っ込めないでしょう。

 今回ゴア氏が,これほどまでにフロリダにある地域の手作業の再集計にこだわる理由は,本当に逆転の可能性が残されているからです。

 そのヒントはリバーマン氏にあります。
 ゴア氏の副大統領候補のリバーマン氏はユダヤ系移民の子であると名乗っている人物です。これはアメリカの政治風土では非常に珍しいことです。

 WASP(White Anglo-Saxon Protestant,標準的な米国人のこと)という言葉が日本でも知られているように,アメリカの政治風土でもこれが非常に色濃く残されています。その中で,白人・アングロサクソン・プロテスタントのいずれにも当てはまらず,自らユダヤ人だと名乗るリバーマン氏に,ユダヤ系移民の人たちは歓喜しました。

 おかげで,当初選挙資金でブッシュ氏に差をつけられていたゴア氏が,結果的には遜色ないまでに資金を集めることができたのも,財政的に大変豊かなこの人たちのおかげでもあります。
 その財政的に豊かな人たちが老後の生活をする場所としては,フロリダが一番人気があります。つまり,フロリダで,あれだけゴア氏が熱心に手作業の再集計を訴えるのも,そういったリバーマン支持のお年寄り達が,本当に間違えていたら?,と期待しているからでしょう。
 と,考えれば,ゴアの逆転勝利の可能性も見えてしまうわけです。

 しかし,どちらにつけ,この決着を見た暁にはアメリカは大変な傷を負ってしまいます。これだけはっきりしない選挙では,まだ当面の間は両陣営に遺恨が残りそうです。本当に,すっきりといく結末が訪れるのは,いったいいつになるのでしょうか?。



吉田


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