第97号 第1会議室 | (2001/01/22)![]() ![]() |
● 地方から国を変える ● |
「中央集権国家」という言葉を,歴史の授業で聞いたことがある方も多いと思います。日本がひとつの国としてまとまり,中央政府が国の政治を執り行う,簡単に言ってしまえばそのようなものです。 日本に中央集権国家が誕生して以来,戦乱期は別として,ずっと中央政府がこの国の政治を執り行ってきました。 一方,地方の政治は,一部の権限の中で政治を行い,他は国から派遣された政務官にまかせるといったように,国の政治の枠組みの中で,地方の政治は歴史とともにいろいろな形(守護・地頭・藩主・代官・知事など)に変化をしていきました。 そのことを考えると現代も,中央集権的な色彩があるといっても良いと思いますが,逆に最近は,国家が持っている力を,地方分権で地方へ移譲しようという動きが見られます。よくいわれる「小さな政府」への動きです。 昨今は,外形標準課税などで世間を賑わせた石原東京都知事に代表されるように,地方から国に対して提案をしたり,議論をなげかける風潮が出てくるようになりました。これは,無党派の知事であるからこそ出来ることなのでしょうが,これによって地方分権がかなり進んでいる印象を受けました。 課税先を決めたり,ディーゼル車に対する規制をかけることは,国がやることではないのかと以前は思っていましたが,現在の制度の上で,地方でもやれることはたくさんあるということを,皆さんもお気づきになったのではないでしょうか?。 さて,この石原都知事に対して,関連業界諸団体が猛烈に抗議しました。これはある種当たり前の光景ですが,当の石原都知事はどこ吹く風。自らの信念に向かって政策を進めています。 これが内閣の場合となると,ペイオフ解禁,有価証券の申告分離方式への一本化の際の経緯を見ればわかるように,業界団体の意見にするすると従ってしまう,と対照的な状況が見えてきます。 ここで考えてしまうのが,業界団体と政治家との結びつきの問題です。 通常,政治家が国会議員として当選するためには,それなりの資金を必要とします。まして,与党の大臣クラスまで登り詰めるためには,世間に名を売り,あちこちの重鎮に対して接待をしなければならず,合法的な道を通ったとしても,さらなる資金力が必要となるでしょう。 そのためには,業界団体との結びつきは欠かせないものであり,現在認められている企業献金はありがたく頂戴することになります。すると,先の石原都知事と内閣との違いとなって現れてくるのだと思えてしまいます。 業界団体に,配慮をしない石原都知事と,配慮をしなければならない自民党。この差はやはり献金ではないのかなと思ってしまいます。もちろん実際はそんな単純には言い切れないでしょう。 ただ,国民寄りの政策へ行き着くことを考えると,より近道となるのは,地方から国を変えていく方ではないかと思います。 例えば,通常は税制・規制といった国の制度変更をするには,間違いを犯したときの甚大な損害を考えると,多くの時間がかけられ,より慎重におこなわれます。しかし,裏を返せば,それだけノロいわけで,本当に必要なときには制度はひどいまま,必要なくなったときに制度が変わるという,役に立たない例も多々出てくることになります。 しかし,地方から導入するのであれば,実施規模は小さいので,スピーディに物事を運ぶことができます。 また,それが本当に良いものであった場合,全地方で導入をおこなえば,ひいては国全体が変わっていくことになります。こうなると,逆に国政が国を変えるのではなく,地方の政治が国を変えていくことになります。 このように,地方分権が広まれば,国から地方へのボトムダウンではなく,地方から国全体にのボトムアップで変革することも可能になります。地方で成功したことを全国に広めて,全国の地方が導入することで,結局,国全体が変わったことと同じことになるのではないでしょうか?。 今現在,ディーゼル車の排ガス浄化装置のように,すぐに地方が導入できそうな新技術はたくさん存在します。しかし,国が導入に動きを見せる気配はなかなかありません。 これは,あるものを国全体に導入することが,いかに難しく,なかなか決まらないものであるか,ということを物語っています。国のハードルはものすごく高いのです。 こうなってくると,国を変えるためには,地方で実験をして,本当によいものであったら,他の地方でもまねをして導入するという方が,近道だとは思えないでしょうか?。 これからの時代,地方分権が進むにつれ,地方政治家の実力が問われることになると思います。今は軽視される地方自治体の選挙ですが,今後はこの国のため,これからの子供たちのため,21世紀を考えられる地方政治家が求められていくのではないでしょうか?。 (鷲津)
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